AI字幕生成 の検討を始めた放送局や制作会社の担当者から、「いま使っているSemdecはどうなるのですか」という質問をよく受けます。長年SemdecやNeONで字幕を組み上げてきた現場ほど、この不安は切実です。AIが字幕を作れるのなら、専用ソフトはいずれ置き換えられてしまうのだろうか、と。

結論を先に言えば、置き換えにはなりません。SemdecもNeONも「人が放送品質の字幕を仕上げる」ための専用エディタであり、AI字幕生成が自動化するのは、その前段にあたる初稿を作る工程です。ただしこの整理が腑に落ちるには、字幕制作のワークフローを一度、工程単位でほどいてみる必要があります。

Semdecとは、ARIB字幕とNAB字幕をつなぐ専用エディタ

モニターの字幕付き映像を前に、キーボードで字幕を編集する手元

Semdecは、エル・エス・アイ ジャパン(LSIジャパン)が提供するWindows用の字幕制作ソフトウェアです。地上デジタル放送の字幕交換フォーマットであるARIB STD-B36(HD・SD・携帯向け)に対応し、さらにアナログ時代から使われてきたNAB形式の字幕ファイルの作成・編集、ARIBとNABの相互変換までカバーします。Semdecは、 B36という規格そのもの を現場の道具に落とし込んできたソフトの代表格と言えます。

機能の並びを見ると、このソフトが何のために作られたのかが分かります。128色の文字色・背景色や縦書きへの対応。ページ番号の付替や時刻シフトといった一括編集。外字エディタ。そして、ページ番号の重複や時刻の反転を検出するエラーチェック。どれも「放送に出せる字幕ファイルを、規格に違反せず仕上げる」ための機能です。MPEG-1/2やH.264、XDCAM HD MXFといった放送現場の映像フォーマットをプレビューしながら作業できるのも、納品前の確認を同じ画面で完結させるためでしょう。

一方で、音声を聞いて文字を起こす機能は、ここには含まれていません。

NeONとは、校正連携とクラウド・アシストを持つ字幕制作ソフト

NeONは、フォレストダインシステムズの放送字幕制作ソフトウェアです。現行製品のNeON-XはMPEG-1/2、H.264/MP4、XDCAM MXF/Proxy形式の映像に対応し、ジャストシステム製のJust Right!7 Proと連携した文章校正機能を備えます(校正エンジン自体は別売)。販売経路としては、朋栄(FOR-A)グループ経由の取り扱いもあります。

興味深いのはNeON-CA(クラウド・アシスト)の存在です。クラウドのAI音声認識エンジンを選んで文字起こしを行い、認識結果から字幕ページ情報を自動生成して、ARIB STD-B36準拠のARIB HDファイルのほかWebVTT、SRT、CSV、テキストとして出力できる。生成した字幕情報はNeON-Xに取り込み、そのまま編集を続けられます。つまりNeONは、「AIで初稿を作り、人がエディタで仕上げる」という分業を、すでに自らの製品構成として取り込んでいるわけです。

専用エディタの側から見ても、AIは対立物ではなく前工程なのです。

字幕制作の工程をほどく、初稿から整文・検査・納品まで

字幕制作の4工程(初稿・整文編集・検査・納品)と、初稿工程を担うAIの位置づけを示したフロー図

では、その「前工程」とは具体的にどこまでを指すのでしょうか。字幕制作のワークフローは、おおまかに四つの工程に分解できます。

初稿作成:音声を聞き取り、発話をテキストに起こす工程です。従来は人が映像を止めながら書き起こしてきました。AI音声認識が最も得意とする部分で、Subtitle GeneratorやNeON-CAが自動化するのはここです。

整文・編集:起こしたテキストを字幕として組み直す工程。1画面に収める要約、改行位置、話者ごとの色分け、ルビ、表示タイミングの調整。放送字幕の品質はほぼこの工程で決まり、SemdecやNeON-Xが道具として磨かれてきたのもここです。

検査:規格違反や放送事故につながるエラーを潰す工程です。ページ番号の重複、時刻の反転、表記の揺れ。Semdecのエラー検出機能や、NeON-XのJust Right!連携による校正が支えるのはこの工程です。

納品:ARIB STD-B36ファイルやNAB形式など、送出側が受け取れる形式で書き出す工程。放送局ごとの運用ルールに合わせた最終調整も含みます。

こう分解してみると、「字幕制作ソフト」と一括りに呼ばれてきたものの正体は、主に後半三工程のための道具だったことが見えてきます。

AI字幕生成は何を置き換え、何を置き換えないのか

AI字幕生成が置き換えるのは、初稿作成の人手です。60分番組の書き起こしに何時間もかけていた作業が、処理待ちの時間に変わる。効果は大きいのですが、裏を返せば、AIが出力した直後の字幕はまだ「放送に出せる字幕」ではありません。認識誤りの修正、固有名詞の確認、演出意図をくんだ要約といった、人の判断が要る仕事は、整文と検査の工程にそのまま残ります。

だからこそ、AI字幕生成サービスの側には「専用エディタに引き渡せる形式で出力できること」が求められます。ARIB STD-B36やNABで書き出せれば、SemdecやNeON-Xは従来どおりの手順でそのファイルを開き、編集を続けられる。ワークフローの前段だけが差し替わり、後段の道具と人のスキルはそのまま活きるのです。冒頭の「Semdecはどうなるのか」という問いへの答えはこれです。Semdecは残ります。変わるのは、Semdecで開くファイルの作られ方です。

導入形態・得意工程・出力形式で見る三者の位置づけ

とはいえ、役割が違うと言われても、検討の場では並べて眺めたくなるはずです。観点を導入形態・得意工程・出力形式の三つに絞ると、それぞれの守備範囲がはっきりします。

Semdec:パッケージ型のWindowsソフトウェアで、USBドングルによるライセンス形態。得意とするのは整文・検査・納品の各工程で、ARIB STD-B36(HD/SD/携帯)とNAB、その相互変換に対応します。

NeON-X/NeON-CA:NeON-Xは同じくローカルで動く字幕制作ソフトで、Just Right!7 Pro連携の校正が特徴。NeON-CAはクラウドサービスとして初稿作成を支援し、ARIB HD・WebVTT・SRT・CSVなどで出力してNeON-Xへ引き渡します。

AI字幕生成サービス:Subtitle Generatorのように初稿作成の自動化に特化し、放送向けのARIB STD-B36/NAB、Web向けのSRT/WebVTT、編集ソフト連携のXMEMLといった形式で出力するタイプです。生成後の整文・検査は、既存の専用エディタや編集環境に委ねる設計を取ります。

どの製品が優れているか、という話ではありません。担っている工程が違うのだから、比較の軸は「自社のワークフローのどの工程を、どの道具とどの人に割り当てるか」に置くべきです。クラウドに音声を出せる素材なのか、局外に出せない素材なのか。納品形式はB36なのかNABなのか。答えは局や番組ごとに違います。

NAXAの取り組み

NAXAのSubtitle Generatorは、この工程分担を前提に設計したAI字幕生成・文字起こしサービスです。ARIB STD-B36/NAB、SRT/WebVTT、XMEMLでの出力に対応し、生成した初稿をSemdecやNeONといった既存の専用エディタ、あるいはPremiere Proなどの編集環境へそのまま引き渡せます。放送素材を局外に出せない場合に備えたオンプレミス/オフライン構成にも対応し、テレビ大阪や北海道文化放送(UHB)などでの導入実績があります。

使い慣れたエディタを手放す必要はありません。むしろ、初稿が自動で用意されるようになったとき、整文と検査にどれだけ時間を割り当て直せるか。専用ソフトと人の経験が本当に生きるのは、そこからだと考えています。