企業PR動画を作りたい、という相談は、置き場所が決まる前に始まることがよくあります。予算と尺と納期の話は最初から出るのに、どこに置くかだけが後回しになる。
そして完成してから分かります。採用サイトに載せるには長い、展示会のブースでは音が聞こえない、営業がメールに添えるには重い。作り直せない段階で分かるのが、この順番の厄介なところです。
尺は視聴者ではなく、置き場所が決める
同じ会社紹介でも、置く場所によって必要な形が違います。よく使われる尺を並べると、違いは尺そのものより右端の列に出ます。
| 置き場所 | よく使われる尺 | 音 | 本当の要件 |
|---|---|---|---|
| 採用サイト | 2〜3分 | 再生される | 社員の言葉と、働く場所が見えること |
| 展示会のブース | 30〜60秒でループ | 聞こえない | 文字だけで意味が通ること |
| SNSの縦型 | 15〜60秒 | 消音で始まる | 冒頭2秒で何の会社か分かること |
| 商談・営業資料 | 1〜2分 | 再生される | 課題と解決が順に並んでいること |
| 取引先・株主向け説明 | 3〜5分 | 再生される | 事実と数字の裏付けがあること |
展示会の行だけ「聞こえない」と書いたのは、ブースの音は隣のブースの音に負けるからです。ここを外すと、ナレーションで全部を説明する構成の動画が、無音のまま3日間流れ続けることになります。
尺の数字のほうは相場であって、守るべき規格ではありません。守る価値があるのは、置き場所を先に1つ決めてから構成を考えるという順番のほうです。
「かっこいい動画を」だけで発注すると、何が起きるか
参考として渡される他社の動画は、たいてい映像のテンポと音楽が良いものです。ところが、その動画が成立している理由は演出ではなく、被写体の側にあることが多い。工場があれば画が持ちますし、人が多ければ表情で持ちます。
同じ演出を、会議室とオフィスの引きの画だけで再現しようとすると、素材が足りません。足りない分はナレーションと文字で埋めることになり、結果として説明的な動画になります。かっこよさは、演出ではなく撮れるものの側から決まります。
採用向けに作る場合は、この差がはっきり出ます。応募者が見たいのは会社の理念よりも、働いている場所と、そこにいる人が実際に喋っている姿です。撮影の予定を立てる段階で、誰に何分喋ってもらえるかを先に押さえておくほうが、絵コンテを綺麗にするより効きます。
1本のPR動画は、そのままでは1回しか使えない
16:9で作った本編は、置き場所を1つしか持てません。にもかかわらず、次の予算が付くのは早くて1年後です。
撮影を1回で終わらせて出口を増やすなら、設計の段階で二次利用を入れておくことになります。インタビューなら、質問ごとに答えが完結する形で撮っておく。前の質問を受けた「それについては」から始まる答えばかりだと、切り出した瞬間に意味が通らなくなります。
この切り出しは、あとからAIに任せられる部分でもあります。ただし、任せられるのは探して切るところまでで、出しても大丈夫かの判断は残ります。継続的に本数を出す運用に載せるなら、決めることの順番も変わります。
発注仕様に書き漏らすと、あとで高く付く
見積書に並ぶのは、撮影日数と編集と納品です。あとで効いてくるのは、そこに書かれていないほうです。
確認しておきたいのは次の項目です。
撮影した未編集の素材を引き渡してもらえるか。編集プロジェクトのデータを受け取れるか。字幕やテロップを、映像に焼き込む前の形でもらえるか。書き出しを用途ごとに何種類出してもらうか。出演者と楽曲の権利が、二次利用とSNS投稿まで、地域や期間の制限なしで使える範囲になっているか。
費用の側も、見積書の合計より内訳の変動要因を見ておくほうが実務的です。撮影が何日になるか、出演者に誰を立てるか、ロケ地をいくつ回るか、ナレーションを人が読むか、そして権利をどの範囲まで押さえるか。金額が動くのはこのあたりで、編集の作業量そのものが理由で大きく動くことは多くありません。
効いてくるのは後ろの2つです。書き出しが1種類しかないと、置き場所を増やすたびに制作会社へ戻すことになります。権利の範囲が本編の公開だけに限定されていると、ショートに切り出して投稿した時点で契約の外に出ます。あとから許諾を取り直すと、撮り直したほうが安かった、という結論になることもあります。
字幕を後から付けると、二度手間になる
字幕を映像に焼き込んだ状態で納品されると、文字を直すのに編集を開き直すことになります。誤字が1つ見つかっただけで制作会社への依頼が発生する状態は、本数を増やす方向とかみ合いません。
分離した字幕データを一緒に受け取っておけば、直すのも、別の言語に差し替えるのも手元でできます。音声から字幕を起こす工程そのものは自動化が進んでいますが、固有名詞と数字は機械が間違えるので、確認の工程は残ります。
書き出し形式も同じ理由で先に決めておくと楽です。同じ画質でも符号化方式が違うと、受け取った相手の環境で再生できないことがあります。
NAXAの取り組み
NAXAは映像制作会社ではなく、放送局や制作会社向けにAIの仕組みを作っている会社です。PR動画そのものを撮るのではなく、撮り終えた長尺から縦型のショートを作る工程や、字幕・テロップを付ける工程を自動化する側にいます。AIショート動画生成では盛り上がりシーンの自動検出から縦型編集、BGMとテロップの挿入までを扱い、SNS運用までを含めて提供しています。
だから発注仕様の話をしています。二次利用を前提にした素材の受け取り方さえできていれば、そのあとの展開はかなり自動化できます。逆にそこが抜けていると、次にできることは撮り直しだけになります。次に作るPR動画は、どこに置くところまで決まっているでしょうか。