マルチDRM
Multi DRM(Digital Rights Management) / マルチディーアールエム
Widevine、PlayReady、FairPlay Streamingという複数のDRMを1つの配信で併用し、ブラウザやスマホ、テレビの種類を問わず暗号化した動画を再生させる運用のことです。有料配信や見逃し配信で求められます。
- 併用する主なDRM
- Widevine(Google)、PlayReady(Microsoft)、FairPlay Streaming(Apple)
- 共通暗号化の規格
- ISO/IEC 23001-7(CENC)
- 暗号化の方式
- cenc(AES-CTR)とcbcs(AES-CBCのパターン暗号化)
- ブラウザ側の窓口
- W3C Encrypted Media Extensions(EME)
- 組み合わせる配信方式
- HLS、MPEG-DASH、CMAF
- 鍵の受け取り方
- 再生のたびにプレイヤーがライセンスサーバーへ要求する
iPhoneでは再生できる暗号化動画が、パソコンのChromeでは真っ黒のまま動かない。こうした症状の多くは、端末ごとに載っているDRMが違うことから起きます。マルチDRMは1本の映像を複数のDRMで開けるように用意し、端末に合ったライセンスを返す運用の呼び名で、特定の製品名ではありません。
マルチDRMが使われる場面
有料の動画配信サービス、スポーツのライブ配信、放送局の見逃し配信や同時配信では、映画会社や競技団体などの権利元が、配信の条件として業界で通用するDRMでの保護を求めることが一般的です。許諾条件に「HD以上はハードウェアで保護された再生環境に限る」といった一文が入ることもあり、そうなると配信側は端末ごとにDRMを出し分ける必要が出てきます。
端末と、そこで使われる主なDRMの対応は次の通りです。
- Chrome、Firefox、Android端末、Android TV: Widevine
- Windows上のEdge、Xbox、多くのスマートテレビ: PlayReady(EdgeはWidevineも使える)
- Safari、iPhone、iPad、Apple TV: FairPlay Streaming
構成としては、エンコードのあとのパッケージング工程で映像を暗号化し、鍵をライセンスサーバーに登録します。ライセンスサーバーは自前で持つより、3種類のDRMをまとめて扱うマルチDRMのサービスを契約する例が多く見られます。AWS Elemental MediaPackageのようなパッケージャーは、SPEKEというAPIで鍵管理サービスと鍵をやり取りします。
マルチDRMの仕組み
土台になっているのは、CENC(Common Encryption)という共通暗号化の規格です。映像は1回だけ暗号化し、その中に各DRMのライセンス取得情報を並べて持たせます。プレイヤーは端末に組み込まれた復号モジュール(CDM)が対応するDRMを選び、ライセンスサーバーから鍵を受け取って復号します。鍵はCDMの中にとどまり、アプリやJavaScriptからは見えません。ブラウザでは、このやり取りの窓口をEMEというW3Cの仕様が担っています。
暗号化の方式は2種類あります。以前はFairPlayがcbcs、WidevineとPlayReadyがcencを使っていたため、HLS用とMPEG-DASH用で暗号化したファイルを別々に持つ必要がありました。CMAFのセグメントをcbcsで揃えれば1組のファイルで3種類のDRMに対応できますが、古いスマートテレビやセットトップボックスはcbcsを復号できないことがあり、対象端末の洗い出しが先になります。
マルチDRMの設定で間違えやすい点
つまずきやすいのは暗号化そのものより、ライセンスに付ける条件のほうです。
- WidevineにはL1(ハードウェアで保護)とL3(ソフトウェアのみ)のセキュリティレベルがあり、パソコンのChromeは多くがL3です。HD以上をL1に限る設定にすると、パソコンでは低い画質しか出ません
- 外部モニターへの出力にHDCPを必須にすると、変換アダプターを挟んだ環境で画面が黒くなります
- ライセンスの発行にユーザー認証のトークンを付けていないと、URLを知った人に鍵が渡ってしまいます
- ダウンロード再生を許すなら、ライセンスの有効期限とオフラインでの保持期間を別に決める必要があります
画面を録画すると映像部分だけ黒く写るのは、DRMの出力保護が効いている状態で、故障ではありません。配信の全体像はHLSとMPEG-DASHの違いを解説したコラムでも整理しています。
よくある質問
マルチDRMとは簡単に言うと何ですか
Apple、Google、Microsoftの3社がそれぞれ持つDRMを同じ動画に同時にかけ、どの端末でも正規の視聴者だけが再生できるようにする運用です。暗号化は1回で、配る鍵のライセンスを端末に合わせて出し分けます。
DRMのかかった動画は画面録画できますか
多くの端末では、録画しても映像部分が黒く写ります。ブラウザや端末の設定によって保護の強さは変わるため、どこまで防げるかはライセンスの条件と再生環境の組み合わせで決まります。
FairPlayだけ、Widevineだけで配信してもよいですか
対象の端末が限られているなら1種類でも配信できます。iPhoneとAndroidとパソコンの全部に届けたいなら、少なくともFairPlayとWidevineの2つ、スマートテレビまで含めるならPlayReadyも必要になります。
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似ている形式との違い
| 名前 | 主に使う場面 | マルチDRMとの違い |
|---|---|---|
| HLSのAES-128暗号化 | 簡易な視聴制限 | セグメントを共通鍵で暗号化するだけの仕組み。鍵はふつうのHTTPで配られ、端末の中で鍵を守る仕組みや出力の制限はない |
| 限定受信方式(CAS) | 放送のスクランブル | B-CASやACASのように放送波を契約した受信機だけに見せる仕組み。ネット配信のDRMとは鍵の配り方も端末も別 |
| 署名付きURL | CDNでのアクセス制限 | 期限付きの署名でファイルを取得できる人を絞るだけで、取得したファイル自体は暗号化されない |
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