DVB-NIP
Native IP Broadcasting / ディーブイビーエヌアイピー
衛星や地上波の放送波にMPEG-2 TSではなくIPパケットをそのまま載せて運ぶ、DVBの伝送の枠組みです。ETSI TS 103 876として仕様化され、受け側ではネット配信と同じHLSやDASHとして扱えます。
- 規格
- ETSI TS 103 876 Native IP Broadcasting(DVB-NIP)
- 策定団体
- DVB Project
- 公開されている版
- V1.1.1(2024年9月)。V1.2.1の草案がDVBのBlueBook A180として公開されている
- 運ぶもの
- IPパケット。MPEG-2 TSによる多重化を前提にしない
- 組み合わせる伝送路
- DVB-S2 / S2X(衛星)、DVB-T2(地上波)
- 放送波へのIPの載せ方
- DVB-GSE(Generic Stream Encapsulation)
- 配信の層
- DVB-MABRでセグメントを運び、DVB-Iでチャンネルを見つける
- 映像・音声
- DVB-AVC、DVB-DASHの規定に従う
放送と配信で設備を二重に持つと、同じ番組のために別々のエンコードとパッケージングを用意することになります。DVB-NIPは、この重複を減らすために放送波の上をIPパケットで通し、受け側で配信と同じ形として扱えるようにする枠組みです。放送波を、広い範囲に一度に届く片方向のIP回線として使う考え方です。
DVB-NIPが使われる場面
想定されているのは、地上のIP網が細い地域や、そもそも網が届かない地域への配信です。衛星は1つのビームで広い範囲を一度に覆えるので、視聴者が増えても帯域が増えません。ここに配信と同じ形式のセグメントを流し、受け側の機器がローカルのHTTPサーバーとして配れば、端末側は通常のMPEG-DASHやHLSのプレイヤーで再生できます。
業務用の使い方もあります。放送局のネットワークで、系列局や中継拠点へ素材やチャンネルを一斉に配る用途です。宛先ごとに別の回線を張るより、衛星で一度に撒いて受け側で必要なものだけ取る形にできます。仕様も、消費者向けと業務用の両方を対象にしていると述べています。
船舶や航空機、移動体への配信のように、地上の網が使えない環境でネット配信と同じ仕組みを使いたい場面も、この枠組みが向く領域として挙げられます。
DVB-NIPの仕組み
DVB-NIPは新しい圧縮方式や新しい変調方式を作っていません。既存のDVBの規格を組み合わせて、端から端までの流れを1つの形に定めたものです。積み上がっている層は次の通りです。
- 伝送路は衛星のDVB-S2 / S2X、地上波のDVB-T2をそのまま使う
- IPパケットを放送波に載せるところはDVB-GSEが受け持つ。MPEG-2 TSの固定長パケットを経由しない
- セグメントの配り方はDVB-MABRに従う。片方向の放送波はマルチキャストと同じ扱いになる
- チャンネルの発見はDVB-Iのサービスリストで行う
- 映像と音声の符号化はDVB-AVCとDVB-DASHの規定に従う
放送波は片方向なので、MABRのユニキャスト修復をそのまま使うには戻りの回線が要ります。細い回線でも戻りがあれば取りこぼしを補え、戻りがまったくない環境では前方誤り訂正と繰り返し送出に頼る形になります。
日本の新4K8K衛星放送がMMT・TLVでTSから離れたのと、方向としては似ています。ただしMMTはMPEGの多重化方式で、NIPは既存のIPとHTTP配信の仕組みをそのまま放送波に載せる枠組みなので、受け側に求めるものが違います。
DVB-NIPで間違えやすい点
- 放送波が片方向であることは変わりません。視聴者ごとに違う映像を出す使い方や、戻りの通信を前提にした機能はそのままでは成り立ちません
- 受信機は放送のチューナーとIPのルーティングの両方を持つ必要があります。既存のSTBのソフトウェア更新だけで対応できるとは限りません
- 衛星の伝搬遅延に加え、受け側でセグメントをそろえる時間が乗ります。生中継の遅延は従来の放送より大きくなります
- IPで運べることと、番組の権利や地域制限が解けることは別です。地域ごとの出し分けは配信側の仕組みで作る必要があります
よくある質問
DVB-NIPとDVB-S2の違いは何ですか
DVB-S2やS2Xは、衛星の電波をどう変調して誤り訂正を掛けるかという伝送方式の規格です。DVB-NIPはその上に何を載せるかを決める枠組みで、TSの代わりにIPパケットを通します。置き換えではなく、組み合わせて使う関係です。
DVB-NIPを受けるには何が必要ですか
衛星または地上波のチューナーに加えて、受けたIPパケットを宅内やローカルの網へ渡す機能を持つ受信機が必要です。端末側のプレイヤーは通常のDASHやHLSに対応していれば足ります。
DVB-NIPは日本の放送でも使われていますか
日本の放送方式はARIBが定めていて、新4K8K衛星放送ではMMT・TLVによる多重化が採用されています。DVB-NIPは欧州のDVB規格の枠組みなので、日本の放送方式として使われているものではありません。
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