DVB-MABR

Adaptive Media Streaming over IP Multicast / ディーブイビーエムエービーアール

同じライブ映像を大人数へ配るとき、視聴者ごとにユニキャストで送る代わりにIPマルチキャストで1回だけ流し、受け側でHLSやDASHに戻す配信方式の規格です。DVBがETSI TS 103 769として仕様化しました。

規格
ETSI TS 103 769 Adaptive Media Streaming over IP Multicast
策定団体
DVB Project
公開されている版
V1.2.1(2024年11月)
主な構成要素
マルチキャストサーバー、マルチキャストゲートウェイ、ユニキャスト修復
運ぶ中身
ABRのセグメント(DASHやHLSのセグメントをそのまま運ぶ)
前提になるネットワーク
マルチキャストが通る管理されたIP網(ISPやケーブル事業者の網)
プレイヤー側
ゲートウェイがHTTPで配るので、既存のDASH・HLSプレイヤーをそのまま使える

同じ試合を100万人が同時に見ると、ユニキャストの配信では100万本のストリームが流れます。網の中を流れるデータは中身が同じなのに、視聴者の数だけ帯域を食います。DVB-MABRは、この重複をIPマルチキャストで畳み、受け側でふつうのHTTP配信に戻すための規格です。

DVB-MABRが使われる場面

想定されているのは、ISPやケーブル事業者が自分の網の中で配信を行う構成です。マルチキャストは経路上の機器が対応している必要があるため、公衆インターネット越しには使えません。逆に言えば、IPTVをすでに運用している事業者の網は前提を満たしています。

いちばん効くのは、視聴が一点に集中する生中継です。スポーツの決勝や大きな災害の報道では、同時視聴が短時間で跳ね上がります。ユニキャストだとその瞬間に合わせてCDNと網の容量を用意しなければなりませんが、マルチキャストなら流れるストリームは1本のままなので、視聴者が増えても網の負荷が増えません。

既存のIPTVをABR配信へ移す道筋としても使われます。従来のIPTVは固定ビットレートのTSをマルチキャストで流す方式でしたが、MABRならHLSやMPEG-DASHのセグメントをそのまま運べるので、配信側の素材を作り分けずに済みます。仕様も既存の設備との互換を保つことを目標に掲げています。

DVB-MABRの仕組み

規格はエンドツーエンドの参照アーキテクチャという形で書かれていて、登場する機能が役割ごとに分かれています。中心になるのは次の3つです。

  • マルチキャストサーバー。配信元のセグメントを受け取り、IPマルチキャストで網の端に向けて流す
  • マルチキャストゲートウェイ。網の端や宅内の機器に置かれ、マルチキャストで受けたセグメントをHTTPで自分の配下のプレイヤーへ渡す
  • ユニキャスト修復。マルチキャストで取りこぼしたセグメントを、ユニキャストで補って埋める

この構成の効き目は、プレイヤーを作り替えなくてよいところにあります。プレイヤーから見ると、相手はローカルのHTTPサーバーです。マニフェストを取ってセグメントを取る動きは通常のABR配信と変わりません。マルチキャストの参加と離脱はIGMPなどでゲートウェイが受け持ちます。

ユニキャスト修復があるので、マルチキャストが届かない環境では段階的にユニキャストへ寄る動きになります。視聴者の一部だけマルチキャストが通らない場合でも、その視聴者だけがユニキャストで受ける形に収まります。仕様では、リニア配信以外の使い方として、網の端へあらかじめ素材を置いておく用途にも触れられています。

DVB-MABRの設計で間違えやすい点

  • 経路上のすべての機器がマルチキャストに対応していないと成立しません。家庭内の無線ルーターがマルチキャストを落とす構成では、宅内までゲートウェイを持ち込めません
  • ゲートウェイをどこに置くかで効果が変わります。網の奥に置くと宅内までのユニキャストは残り、宅内に置くとその区間まで畳めます
  • ユニキャスト修復の帯域を見込んでおかないと、パケットロスが増えたときに修復のトラフィックが集中します
  • 画質段をいくつマルチキャストで流すかは設計の判断です。全段を流すと帯域の節約が薄れ、1段だけにすると回線の細い視聴者が困ります
  • 遅延はゲートウェイでの受け直しの分だけ増えます。低遅延の配信と組み合わせる場合はバッファの設計が要ります

よくある質問

DVB-MABRとCDNはどちらを使うべきですか

自分の網の中で配る事業者ならMABRで重複を畳めますが、公衆インターネット越しに届ける配信ではマルチキャストが通らないためCDNが必要です。実際にはMABRで網の端まで運び、そこから先はHTTPで配る構成になるので、両者は排他ではありません。

DVB-MABRを使うにはプレイヤーを作り直す必要がありますか

必要ありません。マルチキャストゲートウェイがHTTPでセグメントを配るので、既存のDASHやHLSのプレイヤーはそのまま使えます。作り込みが必要なのはゲートウェイを置く側です。

DVB-MABRはIPTVのマルチキャストと何が違いますか

従来のIPTVは固定ビットレートのTSをマルチキャストで流し、画質を選べませんでした。MABRは複数の画質段のセグメントを運べるので、回線の状況に応じた切り替えが効きます。配信の素材も、ネット配信で使っているものを共用できます。

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似ている形式との違い

名前主に使う場面DVB-MABRとの違い
CDN大量配信のキャッシュユニキャストのままキャッシュで負荷を分散する。マルチキャストは同じパケットを1回しか流さないので、同時視聴が集中する瞬間に効き方が違う
DVB-Iチャンネルの発見どのチャンネルがどこにあるかを伝える層。MABRはその中身をどう運ぶかを決める層
IGMPマルチキャストの参加マルチキャストグループへの参加と離脱を伝えるプロトコル。MABRはそれを使ってセグメントを受け取る配信方式の全体像を定めている

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