SCTE-35
Digital Program Insertion Cueing Message / エスシーティーイーサンジュウゴ
映像ストリームの中に「ここから何秒間が差し替えられる区間」という合図を埋め込むための規格です。米国のSCTEが策定し、CMの差し替えや広告挿入の位置を送出設備から配信側へ伝える共通の言葉になっています。
- 規格名
- ANSI/SCTE 35 Digital Program Insertion Cueing Message
- 策定団体
- SCTE(米国の通信技術者団体)。ANSI規格としても発行されている
- もとになった規格
- SMPTE ST 312M(圧縮映像のスプライス点の考え方)
- 運ばれ方
- MPEG-2 TSの専用PID。PMTでは stream_type 0x86 として示される
- 主なコマンド
- splice_insert、time_signal、splice_null
- 区間の意味付け
- segmentation_descriptor(CM枠、番組の切れ目、チャプターなどを区別する)
- HLSでの表し方
- EXT-X-DATERANGE の SCTE35-OUT / SCTE35-IN 属性。実運用では EXT-X-CUE-OUT / EXT-X-CUE-IN も広く使われる
- MPEG-DASHでの表し方
- MPD の EventStream、またはインバンドの emsg
配信の仕様書に「SCTE-35のキューを通してください」と書かれていることがあります。これは映像の画質や音声の話ではなく、ストリームの中に「ここから120秒はCM枠です」という機械が読める合図を入れてほしい、という依頼です。合図が入っていないと、広告の差し替えは位置を決められません。
SCTE-35が使われる場面
いちばん多いのは、放送の同時配信です。放送波で流すCMのうち、ネット配信の権利がないものや地域限定のものがあるため、同時配信ではその枠をネット向けの広告や差し替え映像に置き換えます。送出設備が番組のCM枠の頭と尻でSCTE-35のキューを打ち、配信側がそれを受けて差し替えます。
ケーブルテレビや米国のローカル局では、全国ネットの番組に地元のCMを入れる目的で長く使われてきました。もともとこの用途のために作られた規格なので、区間の意味付けを表す segmentation_descriptor には、Provider Advertisement や Distributor Advertisement のように「誰の枠か」を区別する種類が用意されています。
FASTチャンネルやAVODでは、SCTE-35のキューが広告収入の起点になります。エンコーダーやプレイアウトの設定で、番組の切れ目、チャプター、番組の開始と終了もキューとして打てるので、配信のプレイヤー側でチャプター送りやサムネイル切り替えの手がかりにする使い方もあります。
SCTE-35の仕組み
SCTE-35のメッセージは splice_info_section という形をしており、TSの中では映像や音声とは別のPIDで運ばれます。PMTにはそのPIDが stream_type 0x86 として書かれるので、受け側はそこを見てキューのPIDを見つけます。
メッセージの中身は大きく2種類に分かれます。splice_insert は差し替えの開始点と長さを直接指定する形で、古くからある使い方です。time_signal は「この時刻に何かが起きる」という時刻の宣言だけを行い、意味は segmentation_descriptor で別に付けます。近年の運用は後者が中心です。
どちらにも pts_time として、映像のタイムスタンプ上の何時何分でキューが有効になるかが書かれます。つまりキューは「今すぐ」ではなく「少し先の時刻」を指すのが普通で、配信側は前もって広告を用意する余裕を持てます。この前置きの時間は、運用によって数秒から数十秒に設定されます。
パッケージャーはこのキューを読み、HLSなら EXT-X-DATERANGE などのタグとして、MPEG-DASHなら EventStream や emsg としてマニフェストやストリームに書き出します。ここから先はSSAIの仕事になります。
SCTE-35が消える・ずれるとき
トランスコードやパッケージングの途中でキューが落ちる事故は珍しくありません。原因になりやすいのは次の点です。
- トランスコーダーの設定でSCTE-35のPIDを通す指定をしていない。映像と音声だけを取り出す設定になっていると、キューのPIDは黙って捨てられる
- 複数の設備を経由する間にPIDの番号が変わり、下流が想定していたPIDを見ていない
- 再多重化でPCRやPTSが打ち直され、キューの
pts_timeが指す先が実際の映像とずれる - セグメントの長さがキューの時刻と合わず、枠の境目がセグメントの途中に来る。多くのパッケージャーは境目でセグメントを区切り直すが、対応していない設備では枠が数秒ずれる
- 同じキューが繰り返し送られる仕様を下流が二重の合図と解釈し、枠が2回開く
確認の手段としては、パッケージャーが書き出したマニフェストにタグが現れているかを見るのがいちばん早いです。TSの段階で見たい場合は、TS解析ツールでPMTのstream_typeとキューのPIDを確認します。
よくある質問
SCTE-35とSCTE-104の違いは何ですか
SCTE-104は、送出設備やスイッチャーから「今キューを打て」とエンコーダーへ指示するための、ベースバンド側の信号の規格です。エンコーダーはその指示を受けてストリームの中にSCTE-35のメッセージを作ります。上流の指示がSCTE-104、ストリームの中に埋め込まれた結果がSCTE-35という関係です。
SCTE-35はMP4やHLSのファイルにも入れられますか
MPEG-2 TSのPIDとして運ぶのが元の形ですが、配信では HLS のマニフェストのタグや MPEG-DASH の EventStream に置き換えて伝えます。CMAFのセグメントを使う構成でも、キュー自体はマニフェストやインバンドのイベントとして表現されます。
SCTE-35のキューは視聴者に見えますか
見えません。映像にも音声にも影響しない制御用のデータです。ただし枠の境目では不連続点が入るため、切り替わりで一瞬の間が生じたり、端末によっては再生が止まることがあります。
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似ている形式との違い
| 名前 | 主に使う場面 | SCTE-35との違い |
|---|---|---|
| SSAI | 配信の広告差し替え | SCTE-35は「どこに枠があるか」を伝える合図の規格で、SSAIはその合図を見て実際に広告を縫い込む仕組み |
| SMPTE ST 2038 | IP伝送での付随データ | VANCの中身をIPのストリームで運ぶ規格。SCTE-35は広告や番組の区切りという意味を持ったメッセージそのもの |
| VAST | 広告素材の受け渡し | 広告サーバーがどの広告を返すかをXMLで答える仕組み。枠の位置はSCTE-35、中身の決定はVASTと役割が分かれる |
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