PTP
Precision Time Protocol / ピーティーピー
ネットワークにつながった機器の時計を、マイクロ秒以下の精度でそろえるためのプロトコルです。IEEE 1588として規格化されており、ST 2110やAES67のIP放送設備では、ブラックバーストや3値シンクに代わる同期の基準になります。
- 正式名称
- Precision Time Protocol
- 規格
- IEEE 1588(2008年版がPTPv2、2019年版がv2.1)
- 放送向けのプロファイル
- SMPTE ST 2059-2
- 音声向けのプロファイル
- AES67のメディアプロファイル
- ドメイン番号の既定値
- ST 2059-2は127、AES67は0
- 使うポート
- UDP 319(イベントメッセージ)、320(一般メッセージ)
- 主な役割の機器
- グランドマスター、バウンダリークロック、トランスペアレントクロック
- 時刻の基準
- TAI。GPSなどのGNSSから取るのが一般的
IP化した設備で「映像は来ているのに音がずれる」「切り替えの瞬間に絵が乱れる」というトラブルが出たら、最初に疑うのがPTPです。SDIの時代にゲンロックの同軸ケーブルが担っていた「全機器の拍をそろえる」役目を、ネットワークに流れる時刻情報で置き換えたのがPTPだからです。
PTPが使われる場面
ST 2110の設備では、カメラ、スイッチャー、音声卓、送出サーバーのすべてがPTPで時計を合わせます。映像と音声が別々のストリームで届いても、全員が同じ時計でタイムスタンプを付けているので、受け手は同じ瞬間どうしを並べ直せます。
音声の世界でも使われており、AES67やDanteの音声ネットワークはPTPで機器のサンプリングのタイミングをそろえています。ST 2110の音声がAES67を土台にしているため、映像と音声の機器が1つのPTPの時計を共有する設計になります。
時計の大もとになるグランドマスターには、GNSSの電波を受けて正確な時刻を得る同期信号発生器(SPG)がよく使われます。多くのSPGはPTPと同時に従来のブラックバーストや3値シンクも出力できるので、SDIの機器とIPの機器が混在する移行期の局でも同じ基準で運用できます。
PTPの仕組み
ネットワーク上の時計の中から、優先度や精度をもとに最も良いものがグランドマスターに選ばれます(BMCA)。グランドマスターは、Syncメッセージで「いまの時刻」を定期的に配ります。受け手(スレーブ)はDelay_Reqを送り返し、その応答から往復にかかった時間を測って、片道分の遅れを差し引いて時計を合わせます。
この計算は行きと帰りの遅れが同じだという前提に立っているので、スイッチの中でパケットが待たされると精度が落ちます。そこで、PTPを理解するスイッチがバウンダリークロックとして時刻を受け直して配り直すか、トランスペアレントクロックとして通過にかかった時間を書き添えます。
ST 2059-2の既定では、Syncを1秒に8回(125ms間隔)、Announceを250ms間隔で送ります。ST 2059-1は、PTPの時刻から映像のフレームや音声のサンプルの位相をどう決めるかを定めていて、これによって同期信号の配線なしに全機器のフレームの頭がそろいます。
PTPの設定で間違えやすい点
PTPのトラブルの多くは、次の設定の食い違いから起きます。
- ドメイン番号が合っていない。ST 2059-2の既定は127、AES67の既定は0なので、音声機器だけ別のドメインで動いていることがある
- 途中のスイッチがPTPに対応していないか、プロファイルの設定がされていない。遅延のゆらぎがそのまま時刻の誤差になる
- 予備のグランドマスターの優先度(Priority1、Priority2)を決めておらず、意図しない機器がグランドマスターになる
- GNSSのアンテナが外れたときに時刻を保つホールドオーバーの性能を確かめていない
よくある質問
PTPとNTPの違いは何ですか
どちらもネットワークで時計を合わせる仕組みですが、NTPはミリ秒程度、PTPはマイクロ秒以下の精度を狙います。PTPはスイッチによる補正を前提にしており、放送の映像・音声のようにサンプル単位でタイミングをそろえる用途ではPTPが使われます。
PTPのドメインとは何ですか
1つのネットワークの中で、別々のPTPの系統を区別するための番号です。同じドメイン番号の機器だけが同じグランドマスターに従うので、映像と音声の機器で番号がずれていると同期が取れません。
ST 2110に移行するとゲンロックは要らなくなりますか
ST 2110の機器はPTPで同期するので、その機器にはブラックバーストの配線が要りません。ただし、SDIの機器が残っている間は従来の同期信号も必要で、PTPと同期信号の両方を出せるSPGで同じ基準からそろえるのが一般的です。
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