多重化装置(MUX)
multiplexer / タジュウカソウチ
番組ごとの映像・音声・字幕・データ放送と、PSI/SIの制御情報を1本のTSにまとめる装置です。放送局の送出では、エンコーダーの後ろ、送信所へ渡す変調の前に置かれます。
- 英語表記
- multiplexer(MUX、マックス)
- 役割
- 複数の番組のストリームとPSI/SIを1本のTSに多重する
- 送出系での位置
- エンコーダーの後ろ、送信所へ渡す前
- 主な入力
- 各番組のエンコード済みストリーム、字幕やデータ放送のストリーム、SI送出装置からの番組配列情報
- 主な出力
- 放送波に載せるMPTS
- 出力レートの合わせ方
- 余りをヌルパケット(PID 0x1FFF)で埋めて一定のレートにする
- PIDの扱い
- 入力ごとにPIDを割り当て、重複するときは付け替えてPATとPMTを作り直す
- 多重の方式
- 番組ごとに帯域を固定する方式と統計多重
- 構成
- 本系と予備系を並べた二重化が基本
放送設備の系統図で、複数のエンコーダーから線が集まって1つの箱に入り、そこから1本の線が送信所へ伸びている。その箱が多重化装置です。ここから先は番組が別々のストリームではなく、1本のTSとして扱われます。
多重化装置が使われる場面
地上デジタル放送の送出では、マスターから出たベースバンドの映像と音声をエンコーダーが圧縮し、その出力が多重化装置に集まります。ここへ字幕やデータ放送のストリーム、SI送出装置が作った番組表の情報も入り、1本のMPTSになって送信所へ向かいます。放送が止められない設備なので、本系と予備系を並べて、異常があれば切り替える構成が基本です。
ケーブルテレビやIPTVのヘッドエンドにも同じ装置があります。放送波から受けたチャンネルや自主放送のチャンネルをまとめ、自社の伝送路の容量に合わせたTSを作ります。既にあるTSから番組を抜いたり足したりする用途では、再多重装置(リマルチプレクサ)と呼ばれる機器が使われます。
クラウドやソフトウェアで組む場合も、機能としての多重は必要です。AWS Elemental MediaLiveのような配信向けのエンコーダーは、多重の処理を内部で行いUDPやRTPでTSを出します。仕組みの整理はクラウドの構成要素を扱ったコラムでも触れています。
多重化装置の仕組みとPSI/SIの扱い
多重化装置の仕事は、入力してくるパケットを並べ直すだけではありません。TSとして成り立たせるための表を自分で作ります。
- 入力ごとにPIDを割り当て、重複があれば付け替える
- 番組の一覧を示すPATと、番組ごとの中身を示すPMTを生成し、決められた周期で繰り返し送る
- SI送出装置から受けたSDTやEITなどのPSI/SIを、決められたPIDに載せる
- 番組ごとのPCRを、並べ直した位置に合わせて打ち直す
- 出力のビットレートを伝送路の容量に合わせ、余りをヌルパケットで埋める
配分の方式は2通りあります。番組ごとに帯域を固定すると、他の番組の影響を受けない代わりに余った帯域は使われません。統計多重にすると、番組間で帯域を融通できる代わりに、混雑した瞬間は各番組の画質が下がります。
多重化装置の運用で間違えやすい点
設定の食い違いが放送に直接出るのが、この装置の怖いところです。よく問題になるのは次の点です。
- PMTに載せるストリームの種類(stream_type)や記述子が実際の中身と合っておらず、受信機が音声や字幕を認識しない
- 字幕やデータ放送のPIDを設定したのに、そこへストリームが流れていない
- マルチ編成の切り替えでPMTの更新が間に合わず、切り替わりの瞬間に映像や音声が出ない
- 入力の合計レートが出力の容量を超えていて、ヌルパケットどころかパケットが捨てられる
装置の設定を変えたら、出力のTSを解析ツールでそのまま見て、PATとPMTの中身、各PIDのビットレート、PCRの間隔を確かめるのが確実です。系統図の上では正しくても、表の中身が古いままという状態はよく起こります。
よくある質問
多重化装置とエンコーダーの違いは何ですか
エンコーダーは映像と音声を圧縮してストリームにする装置です。多重化装置は、そのストリームを複数まとめて1本のTSにし、PATやPMTなどの表を付ける装置です。1台の機器が両方の機能を持つ製品もあります。
MUXは何の略ですか
multiplexer(マルチプレクサ、多重化装置)の略です。現場では「マックス」と読まれることが多く、系統図でもMUXと書かれます。逆の処理を行う分離側はDEMUX(デマルチプレクサ)です。
FFmpegでも多重化はできますか
FFmpegのmpegtsの出力でTSを作れるので、複数の映像や音声を1本のTSにまとめる処理は行えます。ただし放送設備に入れるTSには、PSI/SIの周期やPCRの精度、記述子の内容といった運用上の要件があるため、検証や変換の用途と本番の送出は分けて考える必要があります。
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