バウンダリークロック
Boundary Clock / バウンダリークロック
PTPの時刻をスイッチがいったん受け取り、自分の時計に取り込んでから下流へ配り直す動き方です。スイッチの中でパケットが待たされる分の誤差を切るため、ST 2110の設備ではスイッチをこの設定で使います。
- 規格
- IEEE 1588(2008年版がPTPv2、2019年版がv2.1)
- 放送向けのプロファイル
- SMPTE ST 2059-2
- PTPの時計の役割
- オーディナリークロック、バウンダリークロック、トランスペアレントクロック
- バウンダリークロックの動き
- 上流のポートでは受け手として時刻を受け、下流のポートでは自分がマスターとして配り直す
- トランスペアレントクロックの動き
- 時刻を受け直さず、パケットが機内に滞在した時間を補正フィールドに足して通す
- グランドマスターの決まり方
- BMCA。Priority1、Priority2やクロックの精度、クロックIDで比較される
- 使うポート
- UDP 319(イベントメッセージ)、320(一般メッセージ)
- JT-NM TR-1001-1の要件
- メディアノードは既定でグランドマスターにならないこと、IS-09で配られたPTPのパラメータとドメイン番号を使うこと
PTPは往復の遅れを測って時計を合わせるので、途中のスイッチでパケットが待たされると、その待ち時間がそのまま誤差になります。バウンダリークロックは、スイッチがこの待ち時間を下流へ持ち越さないための動き方です。設備の見積りで「PTP対応スイッチ」と書かれているものは、実質この機能を指しています。
バウンダリークロックが使われる場面
ST 2110のスパインリーフ構成では、グランドマスターとなる同期信号発生器(SPG)をスパイン側に置き、各リーフスイッチをバウンダリークロックとして動かすのが一般的な作りです。カメラやスイッチャーから見ると、時刻の配り元は自分がつながっているリーフスイッチになります。
この作りには2つの効き方があります。1つは誤差の切り離しで、リーフから先の遅れの測定が1ホップ分に収まります。もう1つは負荷の分散で、1台のグランドマスターが数百台の機器に直接応答する代わりに、各リーフが下流の機器を受け持ちます。機器の台数が増える中継車や副調整室では、後者の効き方も無視できません。
音声側も同じ時計に乗ります。AES67やDanteの機器が同じスイッチにつながっている場合、スイッチがバウンダリークロックとして両方のドメインを扱えるかどうかが、機種選定で確認される点になります。
バウンダリークロックとトランスペアレントクロックの違い
バウンダリークロックは、上流のポートでは受け手として時刻を受け取り、自分の時計を合わせたうえで、下流のポートでは自分がマスターとして時刻を配り直します。PTPの階層はスイッチごとに区切られ、受け手が測る往復の遅れは自分のすぐ上のスイッチまでの分だけになります。
トランスペアレントクロックは時刻を受け直しません。PTPのメッセージがスイッチの中に滞在した時間を測り、その値を補正フィールドに足して素通しさせます。受け手は補正分を差し引いて計算するので、階層は増えないまま待ち時間の影響が消えます。遅れの測り方には、受け手がグランドマスターまでの往復を測るE2Eと、隣どうしで測って足し上げるP2Pの2種類があり、トランスペアレントクロックはP2Pと組み合わせて使われることが多いです。
PTPを理解しないスイッチをそのまま使うと、どちらの補正も働きません。トラフィックが増えた瞬間にキューでの待ちが伸び、時刻の誤差が数百ナノ秒から数マイクロ秒の単位で揺れます。映像が止まるほどではない揺れでも、音声のサンプルの並べ直しや切り替え時の位相に出てきます。
バウンダリークロックの設定で間違えやすい点
- ドメイン番号がスイッチと機器で違う。ST 2059-2の既定は127、AES67の既定は0で、スイッチ側が既定値のまま残っていることがある
- スイッチのPTPプロファイルがdefaultのまま。Syncの間隔などがST 2059-2の範囲と合わず、機器側が同期しない
- バウンダリークロックを何段も縦に重ねている。1段ごとに誤差が積み上がるので、段数を抑えた構成にする
- 予備のグランドマスターの優先度を決めていない。リーフスイッチが自分の内部時計でグランドマスターに昇格し、設備全体が誤った時刻に引っ張られる
- ST 2022-7で2系統に分けたとき、片方のネットワークがグランドマスターを失ったのに機器が単純な切り替えをしてしまう。両方のインターフェースの時計の情報を見て良い方を選ぶ実装が必要
よくある質問
バウンダリークロックとトランスペアレントクロックはどちらを使うべきですか
放送用のIP設備では、バウンダリークロックで組むのが一般的です。スイッチが下流の機器のマスターになるため、機器側から見た構成が単純になり、グランドマスターの負荷も分散します。トランスペアレントクロックは、スイッチがマスターとして振る舞えない場合や、既存の網を通す場合の選択肢になります。
PTPに対応していないスイッチでもST 2110は動きますか
小規模で、トラフィックが軽く、機器が数台という条件なら映像は流れます。ただし待ち時間の揺れがそのまま時刻の誤差になるため、収録や送出に使う設備では勧められません。切り替え時の乱れや音声のずれとして後から出てきます。
グランドマスターとバウンダリークロックは何が違いますか
グランドマスターは設備全体の時刻の大もとで、GNSSなどから正確な時刻を取ります。バウンダリークロックはその時刻を中継する立場で、自分では時刻の源を持ちません。グランドマスターを失ったバウンダリークロックは、内部の時計で持ちこたえる状態になります。
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