オブジェクトベース音響
object-based audio / オブジェクトベースオンキョウ
番組を構成する音を素材ごとに分けて記録し、それぞれの位置情報と一緒に送って、受け手側のスピーカー配置に合わせて鳴らす考え方です。完成したミックスを送るチャンネルベース音響と対になる言葉です。
- オブジェクトとは
- セリフ、効果音、BGM、歓声など番組を構成する音の素材一つ一つ
- 送るもの
- 素材ごとの音声信号と、その音をどこに置くかを示すメタデータ
- 受け手側の処理
- メタデータをもとに、実際に置かれているスピーカーの位置へ割り当てて再生する(レンダリング)
- チャンネルベースとの違い
- 制作環境と視聴環境のスピーカー配置が違っても音の意図を保ちやすい
- 視聴者ができる調整
- 音声オブジェクトの切り替え、オブジェクトごとの音量バランスの調節
- 代表的な方式
- Dolby Atmos、MPEG-H 3D Audio
- 制作データの受け渡し
- ADM BWF(ITU-R BS.2076のメタデータをWAVに収めた形式)
- 日本の放送での規定
- 地上放送高度化方式の音声符号化方式として、オブジェクトベース音響に対応したMPEG-H 3D Audioの技術条件が規定された
5.1chの番組を作るとき、制作側は決められた位置のスピーカーを前提にミックスを完成させ、その完成品を送ります。視聴環境のスピーカー配置が違えば、意図とは違う鳴り方になります。オブジェクトベース音響は、この前提を外して、音の素材と置き場所の情報を送り、組み立てを受け手側に任せる考え方です。
オブジェクトベース音響が使われる場面
先に広がったのは映画です。映画館は広さも形もスピーカーの数も館ごとに違いますが、素材と位置情報を送って各館でレンダリングすれば、どの館でも同じ意図の音を再現しやすくなります。Dolby Atmosはこの考え方で作られており、いまでは配信や音楽配信にも広がっています。
放送では、韓国が2017年に始めたATSC 3.0方式の地上波UHD放送がMPEG-H 3D Audioを採用しました。日本では、地上放送高度化方式の音声符号化方式として、オブジェクトベース音響に対応したMPEG-H 3D Audioを放送で使うための技術条件が規定されています。視聴者が解説音声などの音声オブジェクトを切り替えたり、解説音声と背景音のバランスを調節したりするサービスが想定されています。
制作の現場では、ミックスの受け渡しにADM BWFが使われます。何十本もの音声トラックと、それぞれの音をどこに置くかを示すXMLを1本のWAVにまとめた形式で、Atmosのマスター納品の標準になっています。
オブジェクトベース音響の仕組み
送る側は、番組の音を素材に分けたまま持ちます。セリフ、効果音、BGM、スタジアムの歓声といった単位です。それぞれに、空間のどこから聞こえるべきかという位置情報と、番組音声の構成や再生条件の情報を添えます。
受け手側の機器は、この情報を読んで、実際に接続されているスピーカーへ音を割り当てます。7.1.4のスピーカーを置いた部屋でも、テレビの内蔵スピーカーでも、ヘッドホンでも、同じ素材から環境に合わせた鳴り方を作れます。この処理がレンダリングです。
素材のまま届くため、視聴者側で構成を変えられるのも特徴です。セリフとBGMのバランスを変えて聞き取りやすくする、解説音声を足す、別の言語の音声に差し替える、スポーツ中継で応援しているチームの声援だけを背景に残す、といった使い方が挙げられています。NHK放送技術研究所は、22.2マルチチャンネル音響で生放送にも対応できるよう、この分野の国際標準化に関わってきました。
オブジェクトベース音響で間違えやすい点
- 立体音響と同じ意味ではありません。高さ方向のスピーカーを足しただけのチャンネルベースの立体音響もあり、オブジェクトベースかどうかは音を素材のまま送るかどうかで決まります
- 制作の手間は増えます。完成ミックスを1つ作れば済むのではなく、素材ごとの音量やメタデータを管理し、いくつかの再生環境で確認する工程が加わります
- 納品ではチャンネルベースの版も求められることが多く、ラウドネスの管理はレンダリング後の状態で行う必要があります
よくある質問
オブジェクトベース音響とチャンネルベース音響の違いは何ですか
チャンネルベースは、どのスピーカーから何を出すかを決めた完成ミックスを送ります。オブジェクトベースは、音の素材と位置情報を送り、受け手側のスピーカー配置に合わせて組み立てます。視聴環境が制作環境と違うときに差が出ます。
オブジェクトベース音響は普通のテレビでも意味がありますか
あります。スピーカーが2つしかなくても、素材と位置情報から2chへ落とし込むレンダリングが行われます。加えて、セリフと背景音のバランス調整のように、スピーカーの数と関係なく効く機能もあります。
オブジェクトベース音響の素材はどの形式で受け渡しますか
制作側の受け渡しではADM BWFが一般的です。拡張子は通常のWAVと同じですが、中に音声トラックと位置情報のメタデータが入っています。解説放送のように音声を追加する運用とも相性の良い形です。
この用語を扱ったコラム
似ている形式との違い
| 名前 | 主に使う場面 | オブジェクトベース音響との違い |
|---|---|---|
| チャンネルベース音響 | 現行の放送・ディスク | 5.1chのようにスピーカーの数と位置を決めて完成したミックスを送る。視聴環境が違うと意図どおりに鳴らない場合がある |
| Dolby Atmos | 映画・動画配信・音楽配信 | オブジェクトベース音響を実装したドルビーの方式。ベッドとオブジェクトを組み合わせる |
| MPEG-H 3D Audio | 次世代放送 | MPEGが規格化した方式。視聴者が音量バランスを調整する機能を放送向けに持つ |
| アンビソニックス | 空間全体の音場の記録 | 音を素材に分けず、空間の音場そのものを係数で表す。シーンベースと呼ばれる |
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