クラウドマスター
cloud playout / cloud master control / クラウドマスター
放送局のマスター(主調整室)が担ってきた送出の機能を、専用機材の代わりにクラウドや汎用サーバー上のソフトウェアで動かす構成です。チャンネルの増減が設備の追加を伴わない一方、リアルタイム性と回線の確保が設計の焦点になります。
- 対象になる機能
- 運行表に従った切り替え、素材の再生、スーパーの合成、音声の処理、字幕の送出、監視
- 動かす場所
- パブリッククラウド、局内の汎用サーバー、両者を混ぜた構成
- 出力の形
- IPストリーム(SRT、RIST、ST 2110など)。放送波に乗せる手前でベースバンドに戻す構成もある
- 向いている用途
- 専門チャンネル、期間限定チャンネル、災害時のバックアップ系、海外向けチャンネル
- 設計の焦点
- 遅延、系の切り替え、専用線または冗長化した回線、素材のアップロード時間
- 運用の前提
- 素材をあらかじめクラウド側のストレージへ置き、再生までに検査を済ませておく
専用機材で組んだマスターは、1チャンネル増やすだけで機材と工事が付いてきます。クラウド上のソフトウェアで同じことをすれば、その制約は小さくなります。ただし放送のマスターに求められる条件は、配信システムのそれとは違う場所に厳しさがあります。
クラウドマスターが検討される場面
最初に採用が進んだのは、24時間の基幹チャンネルではなく、その周りでした。専門チャンネル、スポーツのシーズン中だけ立てるチャンネル、海外向けのチャンネル、イベント期間の臨時チャンネルです。数か月だけ必要なチャンネルに専用機材を買うのは割に合わないため、期間に応じて使う構成が選ばれます。
もう1つが災害時のバックアップです。局舎が使えなくなったときに、別の場所から最低限の放送を続けるための予備系をクラウドに置く考え方です。常時は待機させ、必要なときだけ立ち上げる運用になります。
海外のベンダーの製品では、同じソフトウェアを局内の汎用サーバーでもクラウドでも動かせる構成が一般的になっています。Imagine CommunicationsのVersioは、オンプレミスとクラウドの両方で動く統合送出システムとして、素材管理から送出、マスターコントロール、グラフィックスまでを1つのソフトウェア群で扱うと説明しています。Grass ValleyのPlayout Xも、運行表の操作、複数の入出力、音声と字幕の管理、グラフィックスの重畳、冗長化の選択肢を備えた製品として案内されています。どの製品も、放送局向けの機能を汎用のコンピュータ上のソフトウェアとして提供する方向で揃ってきています。
クラウドマスターで難しくなる点
送出は、フレーム単位で時刻が決まっている処理です。運行表の時刻に映像を切り替え、ゲンロックの取れた信号を途切れさせずに出し続ける必要があります。汎用のクラウドインスタンスは、CPUの割り当てやネットワークのゆらぎが保証されないため、同じ処理を同じ確実さで回すには余裕を持った設計が要ります。
遅延も避けられません。素材がクラウドにあり、出力を局舎や送信所まで運ぶなら、その往復が加算されます。生中継の映像をクラウドに上げて処理し、戻してから放送に乗せる構成では、放送波に出るまでの時間が従来より伸びます。スポーツや選挙のような、同時性が求められる番組でどこまで許容できるかという判断になります。
回線は最大の検討項目です。インターネット経由ならSRTやRISTで欠けたパケットを埋める設計が必要で、その再送のための遅延を見込みます。確実さを優先するなら専用線を引き、さらに経路を二重化します。回線が落ちたときに何秒で予備系へ移れるのか、移る間に画面が乱れないのかを、契約前に条件として書き出しておく必要があります。
運用の側も変わります。素材は再生の前にクラウド側のストレージへ上げ終わっていなければならず、アップロードの時間と検査の時間を編成のスケジュールに組み込みます。差し替えが直前に入ったときに間に合うのか、間に合わないときに何を出すのかを決めておく作業が、従来のテープやローカルサーバーの運用よりも重くなります。
クラウドマスターの構成をどこで切るか
全部をクラウドに置く構成が唯一の答えではありません。実際には、どの機能をクラウドに出すかを切り分けた構成が多く採られます。切り分けの候補は次の通りです。
- 素材の保管と変換だけをクラウドに出し、送出そのものは局内の汎用サーバーで動かす
- 基幹チャンネルは従来の設備のまま、追加のチャンネルだけをクラウドで立てる
- 現用系を局内に置き、予備系をクラウドに置く
- 監視と運用の画面だけをクラウド化し、どこからでも操作できるようにする
どの切り方でも、送出監視は残ります。機材が見えない場所にある構成では、黒画面や無音が出たことを人が気付く前に検知する仕組みの重みが増します。
よくある質問
クラウドマスターにすると費用は下がりますか
機材の初期費用は下がり、代わりに使った量に応じた費用と回線の費用が続きます。24時間動かす基幹チャンネルでは、数年で見たときに従来の設備のほうが安く付く場合があります。短期間のチャンネルや、常時は止めておける予備系では、クラウド側が有利になりやすいです。
クラウドで送出すると放送波に乗せるまでどうなりますか
クラウドからはIPストリームで出るため、送信所や局舎の手前でベースバンドの信号に戻す装置が必要です。そこから先の多重化や送信は従来のままなので、局舎側の設備が完全に消えるわけではありません。
クラウドマスターは生放送に使えますか
使えますが、遅延の見積もりが前提になります。中継映像をクラウドへ上げて処理し、放送に戻すまでの時間が積み上がるため、同時性が重要な番組では従来の経路を残す判断が取られることがあります。収録番組の送出のほうが条件は緩くなります。
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