ベースバンド
baseband / ベースバンド
放送や映像の現場では、圧縮も変調もしていない、そのまま映像として扱える信号のことを指します。SDIで流れているのがこれで、エンコーダーを通って圧縮ストリームになった時点でベースバンドではなくなります。
- 意味(放送・映像)
- 圧縮も変調もしていない映像・音声信号
- 主な伝送の形
- SDI(同軸1本)、SMPTE ST 2110(IPネットワーク)、HDMI
- データ量の例
- HD-SDIは1.485Gbps、12G-SDIは11.88Gbps
- 対になるもの
- MPEG-2やH.264で圧縮したストリーム、TSに多重したもの、変調した電波
- 局内での境界
- 制作と送出はベースバンド、エンコーダーから先が圧縮ストリーム
- 扱う機材
- スイッチャー、ルーティングスイッチャー、フレームシンクロナイザ、モニター、波形モニター
- 通信での本来の意味
- 変調して高い周波数へ移す前の元の信号
設備の打ち合わせで「そこはまだベースバンドです」と言われて、何を指しているのか掴めない場面があります。放送の現場でこの語が意味するのは、圧縮も変調もされていない、機器がそのまま映像として扱える信号のことです。局内のどこからどこまでがベースバンドかを押さえると、機材の選び方も不具合の切り分け方も決まります。
ベースバンドが使われる場面
スタジオでの制作は、ほぼ全部がベースバンドです。カメラの出力、スイッチャーの入出力、モニターへの分配、収録機への記録の経路はSDIで結ばれ、圧縮されていない映像が流れています。スイッチャーでカットを切り替えたり、テロップを重ねたり、色を調整したりする処理は、画素のデータがそのまま並んでいるからこそ成り立ちます。
送出も、マスターでスイッチャーを通るところまではベースバンドです。そこから先でエンコーダーが圧縮し、多重化装置がTSにまとめ、変調して電波になります。局の系統図を見ると、ベースバンドの区間と圧縮ストリームの区間がこの境目で分かれています。
編集室でも同じ区別があります。タイムライン上の素材はH.264やProResで圧縮されたファイルですが、外部モニターへ出す信号はSDIのベースバンドです。波形モニターやベクトルスコープで色や輝度を測れるのは、この信号を見ているためです。
ベースバンドと圧縮ストリームの境界
2つの違いは、扱いやすさとデータ量の関係に出ます。ベースバンドは画素のデータがそのまま並んでいるので、フレーム単位の切り替えや合成がすぐでき、遅延もほとんどありません。そのかわりデータ量が大きく、HD-SDIで1.485Gbps、12G-SDIで11.88Gbpsを使います。この量では、長い距離を送ることも長時間ためておくことも現実的ではありません。
圧縮ストリームは逆です。データ量は数十分の1に落ちますが、切り替えや合成をするには一度伸張してベースバンドに戻す必要があります。フレーム間の予測を使う形式では、途中の1フレームだけを取り出すのにも前後のフレームが要ります。
IP化すると境界が見えにくくなります。SMPTE ST 2110は非圧縮の映像をIPネットワークで運ぶ規格なので、同軸ケーブルが無くなってもベースバンドのままです。同じネットワークの上を、非圧縮のST 2110と圧縮したTSが別々のストリームとして流れることもあり、どちらの信号を見ているのかを意識する必要があります。
ベースバンドを扱うときに気をつける点
不具合の切り分けは、この境界を基準に進めるのが早道です。ブロックノイズのように圧縮に起因する崩れは、ベースバンドの区間では起きません。逆に、映像が黒になる、同期が外れる、色がずれるといった症状はベースバンドの区間で起きます。どこで症状が出始めるかをたどれば、原因の区間が絞れます。
計測の道具も区間で変わります。ベースバンドは波形モニターで輝度や色域、同期のタイミングを見ますが、圧縮ストリームはTS解析ツールでPIDやビットレート、PCRを見ます。片方の道具でもう片方の区間を調べることはできません。
外部から入ってくる映像は、ベースバンドに戻した時点で局の基準に同期していません。中継回線や他局からの映像は、フレームシンクロナイザを通して局の基準に合わせ直してからスイッチャーへ入れます。
よくある質問
ベースバンドと非圧縮は同じ意味ですか
放送の現場ではほぼ同じ意味で使われます。厳密には、ベースバンドは変調していない元の信号という意味で、非圧縮はデータを圧縮していないという意味です。SDIで流れている信号はどちらの条件も満たしています。
ベースバンドの映像はパソコンで受けられますか
SDIの入力を持つキャプチャーボードを使えば受けられます。ただし非圧縮のままでは1秒あたり1Gビットを超えるため、多くのソフトは取り込みながら圧縮して保存します。非圧縮で残すなら、書き込み速度の速いストレージが必要です。
通信でいうベースバンドとは違うのですか
もとは同じ考え方です。通信では、変調して高い周波数へ移す前の元の信号をベースバンドと呼びます。放送の現場では、そこから意味が広がって、圧縮も変調もしていない映像・音声信号を指す語として使われています。
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似ている形式との違い
| 名前 | 主に使う場面 | ベースバンドとの違い |
|---|---|---|
| TS | 放送波・IP伝送 | 圧縮した映像や音声をパケットに多重した形。そのままではスイッチャーに入れられない |
| SDI | ベースバンドの伝送 | ベースバンドの信号を運ぶための規格。ベースバンドは信号の性質、SDIはその運び方 |
| SMPTE ST 2110 | 局内のIP伝送 | 非圧縮のままIPで運ぶ規格。同軸ではなくなってもベースバンドであることは変わらない |
| RF・変調波 | 送信所から家庭まで | TSを電波に載せた形。周波数を移してあるため、ベースバンドに戻すには復調と復号が必要 |
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