LDM(階層分割多重)
Layered Division Multiplexing / エルディーエム
2つの信号を同じ周波数の同じ時間に、電力の差をつけて重ねて送る多重の方法です。受信機は強い層から順に復調していきます。地上放送の高度化では、現行の放送を残したまま新しい層を足す手段として規定されています。
- 正式名称
- Layered Division Multiplexing(階層分割多重)
- 考え方
- 2つ以上の信号を同じ帯域・同じ時間に、送信電力の配分を変えて重ねる
- 受信の手順
- 電力の大きい層を先に復調し、その成分を受信信号から差し引いてから次の層を取り出す
- 時分割・周波数分割との違い
- 時間や帯域を分け合わないため、どの層も帯域の全部と時間の全部を使える
- 日本での規定
- ARIB STD-B79のISDB-T1.5が、現行の地上デジタルテレビジョン放送との階層分割多重を定める
- 海外での採用
- ATSC 3.0
- 組み合わせて使う技術
- LDPC符号、高次の多値変調、OFDM
1つのチャンネルに2つの放送を載せるとき、素直な発想は時間か帯域を分け合うことです。しかしそれではどちらの取り分も減ります。LDMは分け合う代わりに、強さの違う2つの信号を同じ場所に重ねてしまう方法で、地上放送の高度化の話で必ず出てくる言葉です。
LDMが使われる場面
日本で規定されているのは、ARIB STD-B79のISDB-T1.5です。この方式は、現行の地上デジタルテレビジョン放送と階層分割多重するものとして定められています。いま家庭にあるテレビが受けている信号をそのまま残し、同じ帯域にもう1つの層を重ねるという組み立てで、受信機の入れ替えを一斉に求めずに新しいサービスを足す道筋として検討されてきました。
海外ではATSC 3.0がLDMを採用しています。想定される使い方としてよく挙げられるのは、携帯端末向けの頑丈な信号と、固定受信向けの高画質な信号を1つのチャンネルに重ねる形です。移動受信は電波が弱く不安定になりやすいので、強い層に載せて広く届かせ、屋根のアンテナで受ける側は弱い層まで取り出して情報量を稼ぐ、という役割分担になります。
LDMの仕組み
送信側は、2つの信号に電力の配分を決めて足し合わせ、1つの波として送ります。強い側を核となる層、弱い側を上に重ねる層と呼ぶのが一般的な説明です。
受信側の手順が特徴的です。まず電力の大きい層を復調します。この層から見ると、弱い層は雑音のようなものとして混じっているだけなので、誤り訂正が効く範囲なら取り出せます。次に、復調した層をもう一度信号の形に組み直して、受け取った信号から差し引きます。残ったものが弱い層で、あらためて復調します。この引き算がうまくいくかどうかが性能を決めるため、誤り訂正にはLDPC符号のような強い方式が組み合わされます。
時分割や周波数分割との差はここにあります。帯域を半分に割れば、どちらの層も使えるのは半分です。LDMでは両方の層が帯域の全部と時間の全部を使えます。その代わり、それぞれの層が使える信号対雑音比は電力の配分で決まるので、総量が増えるわけではありません。何をどちらの層に載せるかという設計が、方式の使いこなしになります。
LDMで間違えやすい点
- 現行ISDB-Tの階層伝送と混同しやすい点です。階層伝送は13のセグメントを分けて別々のパラメータで送る仕組みで、ワンセグがその代表例です。帯域を分け合う点でLDMとは考え方が違います
- 容量が無条件に増えるわけではありません。電力を分け合う以上、どちらの層にどれだけ配るかで受信できる範囲と情報量が変わります
- 減るのは重ねた側だけではありません。総務省の試算例では、現行方式に次世代方式を重ねると高電力階層の符号化率を3/4から2/3へ下げる必要があり、固定受信向けのデータレートは16.85Mbpsから14.97Mbpsに、所要C/Nは18.7dBから19.4dBになります
- 既存の受信機が影響を受けないかどうかは、電力の配分や実装によって変わります。重ねた層は既存の受信機にとって雑音が増えたのと似た状態になるためです
- 規格として定められていることと、実際の放送で使われることは別です。ISDB-T1.5はARIB STD-B79に含まれる方式の1つという位置づけです
よくある質問
LDMと階層伝送の違いは何ですか
階層伝送は13セグメントを分割して別々の変調や誤り訂正で送る方式で、現行の地上デジタル放送で使われています。LDMは帯域を分けず、同じ周波数の同じ時間に電力の差をつけて信号を重ねます。分け合うか重ねるか、という点が違いです。
LDMを使うと何が良くなりますか
どちらの層も帯域の全部を使えるため、頑丈さと情報量という性質の違うサービスを1つのチャンネルに載せやすくなります。現行の放送を残したまま新しい層を足すという使い方も、この性質によるものです。
日本でLDMは使われていますか
伝送方式の規格としては、ARIB STD-B79のISDB-T1.5が現行の地上デジタルテレビジョン放送との階層分割多重を定めています。いま受信できる地上デジタル放送はARIB STD-B31の方式で、階層分割多重は使っていません。
似ている形式との違い
関連する用語
最終更新