ARIB STD-B60
デジタル放送におけるMMTによるメディアトランスポート方式 / アライブエスティーディービーロクジュウ
新4K8K衛星放送などで、映像、音声、字幕、データをMMTで運ぶ方式と、その制御情報を定めたARIBの標準規格です。TSで送る2K放送のPSI/SIに当たる情報も、MMTの形でここに定義されています。
- 正式名称
- デジタル放送におけるMMTによるメディアトランスポート方式
- 策定団体
- 電波産業会(ARIB)
- 版
- 1.0版(2014年7月)策定。2.0版(2025年3月)が最新
- もとにした国際規格
- ISO/IEC 23008-1(MMT。2014年3月に標準化)
- 適用する放送
- 高度広帯域衛星デジタル放送(新4K8K衛星放送)。2.0版で高度地上デジタルテレビジョン放送の規定を追加
- 制御情報
- MMT-SI(MPT、PLT、LCT、MH-EIT、MH-SDT、MH-TOTなど)とTLV-SI(TLV-NIT、AMT)
- 時刻の基準
- NTP形式のIPパケットで送る協定世界時(UTC)
- 字幕の伝送
- 第9章で規定。字幕データの形式はARIB-TTML(ARIB STD-B62)に限られない
4Kチューナーやレコーダー、放送波の解析ツールを作るときに「MMT対応」と言われたら、読むべき日本の規格はARIB STD-B60です。MMTそのものはISO/IECの国際規格ですが、日本の放送でどのメッセージをどのパケットIDで送り、番組の情報や時刻をどう伝えるかは、B60で決まっています。
ARIB STD-B60が使われる場面
中心は、2018年12月に始まった新4K8K衛星放送の送受信です。送出側では、HEVCの映像やMPEG-4 AACの音声、字幕、データ放送のコンテンツを、B60の決まりに従ってMMTのパッケージに組み立て、TLVに載せて衛星へ送ります。受信側では、4Kテレビ、4Kチューナー、4K対応レコーダーがB60の制御情報を読んで選局し、映像と音声を同期させて再生します。
受信機の外部出力の設計でも読みます。2019年の1.14版では、4K8Kに対応した高速デジタルインタフェースを受信装置の規格ARIB STD-B63で新たに定めるのに合わせて、必要なテーブルと記述子が追加されました。
放送波の監視装置や解析ソフトの開発では、TSを前提にした道具が使えないので、B60の表の構造に沿ってパーサーを一から用意することになります。2025年の2.0版で高度地上デジタルテレビジョン放送の規定が加わったため、今後は地上波の次の方式を扱う開発でも参照されます。
ARIB STD-B60の仕組み
規格の章は、MMTを用いる放送システムの全体像から始まり、IPパケットによる時刻情報の伝送、制御情報、TLV多重化の制御情報、MMTの符号化信号、映像・音声の伝送、字幕・文字スーパーの伝送と続きます。
制御情報は2つの層に分かれています。
- TLV-SIは、TLVのストリームからIPパケットを取り出すための情報で、物理的なネットワークの構成を示すTLV-NITと、サービスとIPパケットを結び付けるAMTがある
- MMT-SIは、MMTで運ばれるメディアの情報で、番組を構成する映像や音声の一覧と位置を示すMPT、番組名や放送時刻を運ぶMH-EIT、チャンネル名を運ぶMH-SDTなどがある
2K放送のPSI/SIでいえば、MPTがPMTに、MH-EITがEITに近い役割です。ただしパケットの識別はTSのPIDではなく、MMTPパケットのパケットIDで行います。
時刻の扱いも変わりました。MMT自体はクロックの伝送を決めていないため、B60はNTP形式のIPパケットで協定世界時(UTC)を送り、送出側と受信側がこの時刻に同期することを求めています。映像や音声の提示時刻は、MPTに入れるMPUタイムスタンプ記述子で伝えます。
ARIB STD-B60で間違えやすい点
2K放送のTSの感覚で「PMTを探す」「PCRで時刻を合わせる」と考えると、最初でつまずきます。表の名前がMH-で始まるものは2K放送の表と役割が似ていますが、MMTPパケットのメッセージに入れて送られ、table_idや記述子の割り当ても2K放送とは別に定義されています。現在時刻と日本時間の差を伝えるMH-TOTのように、日本標準時で時刻を運ぶ表もあり、NTPのUTCとの取り違えにも注意が要ります。
字幕の扱いも誤解されやすい点です。2018年の1.13版で、MMTで伝送する字幕データの形式は字幕記述方式の識別子で区別し、ARIB-TTMLに限らないことが明確にされました。4K8K衛星放送の字幕の中身はARIB STD-B62が定めるARIB-TTMLで、B60は運び方の側を受け持ちます。
実際の放送で使う値や送出周期は、B60だけでは決まりません。新4K8K衛星放送の運用はTR-B39、とくにその「SI運用規定」の編で細かく決められています。
よくある質問
ARIB STD-B60は無料で読めますか
英語版(1.14-E1)はARIBのサイトから誰でも無料でダウンロードできます。日本語の最新版(2.0版)は、会員以外はARIB Web Storeでの購入です。
ARIB STD-B60とMMT・TLVはどう違いますか
MMT・TLVは新4K8K衛星放送の多重化の仕組み全体の呼び名です。そのうちTLVパケットの形式はSTD-B32、MMTの放送での使い方と制御情報はSTD-B60が決めています。
4K放送の番組表の情報はどこに入っていますか
MMT-SIのMH-EITに入っています。番組名、放送時刻、内容の説明など、2K放送のEITと同じ種類の情報を運びますが、表の形はB60で別に定義されています。
似ている形式との違い
| 名前 | 主に使う場面 | ARIB STD-B60との違い |
|---|---|---|
| MMT・TLV | 4K8K放送の多重化の総称 | 仕組み全体の呼び名。B60はその中で放送でのMMTの使い方と制御情報を細かく決めた規格 |
| ARIB STD-B10 | TSで送る放送の番組情報 | 2K放送のSIの規格。B60のMH-EITやMH-SDTは役割が近いが、MMTの制御情報として別に定義されている |
| ARIB STD-B32 | 符号化と多重化 | TLVパケットやMMTPパケットの形式を決めるのはB32の第3部。B60はその上でのメディアの運び方と制御情報を決める |
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